大きな出来事に遭遇した時、それまで胸に秘めていた傷が疼き、やがて自身の穴を見つめ、心の悲鳴に耳を傾けることになるーー誰にもそのような経験があるのではないだろうか。
ここでは、ある一組の夫婦のパートナーシップが、息子が誘拐されたことから、激しく揺らぐ。夫も妻も、封印していた想いを吐露し、相手にぶつけ、後戻りのきかないところにまで突き進んでしまう。観た者すべてが他人事ではいられなくなる緊迫のヒューマン・サスペンスだ。
主人公を演じるのは、『ドライブ・マイ・カー』での繊細な演技が評価される一方、人気シリーズ「きのう何食べた?」では観る人をホッとさせる一面も持つ、硬軟自在の俳優、西島秀俊。以前から海外の作品にも起用され、国内外で活躍の場を拡げている彼が、全編ニューヨークロケ、台詞の90%以上は英語という新たな挑戦の中で、情感あふれる新境地を見せている。
そして妻を『薄氷の殺人』『鵞鳥湖の夜』で一躍世界の注目を集めた台湾出身の俳優、グイ・ルンメイが体現する。夫を愛すればこそ、真っ向から対峙する魂の表現が真っ直ぐに胸を打つ。
監督・脚本は『ディストラクション・ベイビーズ』や『宮本から君へ』などで、声をあげることができないアウトサイダーたちのやるせなさ、怒り、希求を掬い取ってきた辣腕、真利子哲也。誘拐事件の思いもよらぬ行方を力強く描写する一方、夫婦の機微が否応なく溢れ落ちる様を精緻に紡ぎ、強靭でありながら繊細な傑作に仕上げた。アメリカも大きく揺れ動いた世界的激動の2024年、全編ニューヨーク撮影を敢行した奇蹟の映像にも目を見張らされる。
ニューヨークで暮らす日本人の賢治(西島秀俊)と、中華系アメリカ人の妻ジェーン(グイ・ルンメイ)は、仕事や育児、介護と日常に追われ、余裕のない日々を過ごしていた。ある日、幼い息子が誘拐され、殺人事件へと発展する。悲劇に翻弄される中で、口に出さずにいたお互いの本音や秘密が露呈し、夫婦間の溝が深まっていく。
ふたりが目指していたはずの“幸せな家族”は再生できるのか?

Cast

  • Hidetoshi Nishijima

    西島 秀俊

    [賢治]

    NYの大学で建築の研究をしている日本人助教授。震災の記憶からか破滅願望の現れか、最新の建築よりも廃墟という存在に取り憑かれている。
  • Gwei Lun-Mei

    グイ・ルンメイ

    [ジェーン]

    台湾から移住した賢治の妻。人形劇団のアートディレクターとしてキャリアを積みながらも、父の介護や子育ての為に活動を抑えている。

Staff

  • Tetsuya Mariko

    真利子 哲也

    [監督/ 脚本]

  • Yasuyuki Sasaki

    佐々木靖之

    [撮影技師]

  • YMatthieu Laclau

    マチュー・ラクロー

    [編集]

  • Hiroaki Kanachi

    金地宏晃

    [録 音]

  • Sonia Foltarz

    ソニア・フォルターツ

    [美術]

  • Chad Dougherty

    チャド・ドハティ

    [照明技師]

  • Blair Thomas

    ブレア・トーマス

    [人形劇指導]

  • Jim O'Rourke

    ジム・オルーク

    [音楽]